断られることを承知していた。気持ち悪いと拒否されるのだとも思っていた。
それなのに、まさかのOK。
思わず自分の耳を疑った。何度も何度も答えを確認した。
頬を僅かに赤く染めながら笑う姿が愛しくて、気持ちを受け入れられたことが嬉しくて、衝動的にその身体を抱きしめた。
自分と大差ないと思っていた身体は思いのほか細く、少し驚いた。筋肉は付いているけど、細い。自分とは付き方だ違うのだろう。触れてみないと分からないものだと、新たに手に入れた情報がこれまた嬉しかった。
それが約1ヶ月前。
気持ちを伝えたからといって急に変わらない日常。むしろ、OKされたのは夢ではないかと思うくらいいつも通りに流れる日常。そんな中タイミングとか分からなくて手を繋ぐことも、身体を抱きしめることもままらない俺だけど、もうそろそろ・・・もうそろそろいいのではないかと思う。
そう、キスを・・・。何回か我慢した場面もある。けど、もうそろそろいいのではないか。
「一希」
磯部は隣に座り、飼い猫パパイアと遊ぶ海音寺の名を呼んだ。
「ん?なんじゃ?」
パパイアに視線を落としたまま海音寺は磯部の呼び声に答える。
そんな海音寺に若干の寂しさを感じ、飼い猫に視線を向ければ、気持ち良さそうに海音寺の膝の上で伸びていた。
その姿にムッとする。今すぐ膝の上からどかしたくなった。が、それは流石に大人気ない。磯部は怒りをぐっと抑えた。
そして、視線を海音寺へと戻す。海音寺は実に楽しそうに微笑んでいた。それを不覚にも可愛いと感じてしまい、頬が緩みかける。
唇をきゅっと締め、意を決したように海音寺へと一歩近づいた。
「悠哉?」
磯部が動いたことを気配で感じ、パパイアを両手で抱きながら海音寺は顔を上げた。
自分も近づいたため、上げた海音寺の顔は思いのほか近くにあった。いつもより大きく見える黒の綺麗な瞳。その瞳が己をまっすぐ見つめる。そのことに心臓が跳ねた。ドク、ドクと波打つ音が大きくなる。頬が熱を持ち始めたことにも気付いた。
「一希」
名だけ呼んで、最後の距離を詰めた。
「あっ」
触れると思われたところでチリンという鈴の音が聞こえ、パパイアが動く気配がした。
パパイアを手に抱いていた海音寺は驚き声を上げる。海音寺は自分の手から抜け出したパパイアを追うように頭を回した。
触れると思った矢先に離された唇。
思い切り出鼻をくじかれ、磯部はその場に項垂れた。
「お?悠哉どうしたんじゃ?」
頭上からかかる声に、視線を向ける。
今自分がキスをしようとしていたことに本当に気付いてないような海音寺の表情にさらに悲しくなった。
「なんでもあらへん」
そのまま床に突っ伏す。海音寺の前で床と仲良くしていたら、今度は頭上から笑い声が降ってきた。
そして、頭に触れる手。頭を撫でるその手が気持ちよくて、磯部は目を閉じた。
「なんじゃ悠哉。構ってもらえんで寂しかったんか」
違うと言えば違うのだが、事実飼い猫に対して嫉妬したのだから全否定はできないだろう。そんな自分に溜息を付く。もう今日は出来る雰囲気ではないと磯部は頭に海音寺の手の動きを感じながら悟った。
(あーもーどうして俺はこんなんなんじゃろ)
もう一度溜息をつく。
海音寺に頭を撫でられていることに、磯部は段々と寂しさを感じはじめた。
※磯部さんはヘタレだと思います。・・・ということを言いたかったわけです。
というより、磯海は何もしない方がいい。ただイチャイチャしてるだけで可愛らしいと思います。
や、でも、チューくらいはさせたい。磯部さんは第1回目のチューまでの道のりが物凄く長いと思います。
激しく自己満ですが楽しかったです。
それでは!もう寝よう!
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