世界の全てが眠りにつく時間。海音寺は目を覚ました。
暗闇に支配された世界は何も見えない。
視界を捉えることはできないが、自分を包む温もりを確かに感じた。
心地よい温もりに目を細める。その温もりに甘えるようにさらに身を寄せた。
ぼうっとする頭のまま一点を見つめ続ければ、目が暗闇に慣れ、僅かなながら視界を捉えた。
暗闇の中微かに見える瑞垣の顔。瑞垣は静かな寝息を立てて穏やかに眠っていた。
何も心配することのない今の状況。なのに、海音寺の胸には漠然とした不安が突如生まれた。
確かに目の前にいるのに、確かに体温を感じているのに、突然目の前からいなくなってしまうのではないかという不安。
そんなこと起こりえるはずがないのに、胸がざわつく。
不安に胸が駆られ、熱いものが込み上げる。
自分が感じたことを否定するために、瑞垣の髪へ手を伸ばす。
手に感じる柔らかい髪の感触、数回梳いてからゆっくり手を頬へ移動させた。そっと触れれば感じる頬の感触と体温。確かに感じるそれらに、海音寺はほっと胸を撫で下ろした。
「瑞垣」
海音寺は無意識にその名前を呟いた。
呟いた瞬間、引いたと思った熱いものが競り上がる。
鼻の奥にツンとしたものを感じ、瑞垣の肩口に顔を埋めた。
「瑞垣」
自分からも腕を回し、全身でその存在を確認する。
なのに、頬に触れる前よりも不安が大きくなる。
「瑞垣」
名を呼ぶことでここに縛りつけようとするように、海音寺は何度もその名を呟いた。
徐々に自分の瞳が濡れていくのを感じた。回す腕にも自然力がこもる。
「・・・瑞垣」
「どうしたんや」
突然降ってきた声と同時に、頭を柔らかく撫でられた。
海音寺がゆっくりと顔を上げれば、訝しむ瑞垣の瞳と目があう。
「瑞垣」
「だからなんやの。つかお前・・・」
瑞垣は鼻がくっつきそうなくらいに更に海音寺に顔を寄せた。じっと海音寺の瞳を見つめる。
「もしかして泣いとるんか?」
瑞垣の視線から逃れるように、海音寺は再び肩口に顔を埋めた。
そんな海音寺の頭を瑞垣は優しく何度も撫でる。
「ほんまどうしたねん。目覚めた思うたら海音寺から抱きついてきとるわ、人の名前何度も呼んどるわ、泣いとるわで・・・言うてくれな流石の俺も分からんで?なんや、恐い夢でもみたんか?」
瑞垣のその言葉に海音寺は、違うと肩口に顔を埋めたまま頭を振った。
「だったらなんやの。ほら、言うてみ?」
小さな子どもをなだめるように頭を撫でながら瑞垣は優しく問いかけた。
海音寺の腕に更に力がこもる。
「分からん」
「?」
「分からんのじゃ」
「分からんなら分からんなりに言うてみい」
訳が分からないが、とにかく海音寺を落ち着かせようと、瑞垣もその身体を抱きしめた。
すると、僅かだが、海音寺から力が抜けた。
「さっき・・・な、突然目が覚めたんじゃ。瑞垣より前に」
呟く海音寺の髪に瑞垣は埋めるように鼻を寄せた。
頬に当たる髪がくすぐったい。髪からはシャンプーの柔らかい匂いがした。
「それで?」
「当たり前なんじゃけど、真っ暗で何も見えんかった。でもな、瑞垣の体温を感じて嬉しかったんじゃ。けど・・・」
海音寺が肩に頭を擦り付ける。
「けど、目が慣れてな、少しじゃが見えるようになって、瑞垣見た瞬間・・・何か知らんが不安になった。こんな近くにおるのにぼやっとしか見えんで・・・瑞垣が消えるんじゃないかって・・・そんな考えが一瞬頭をよぎったんじゃ」
その不安を感じた瞬間を思い出したのだろうか、海音寺の腕に再び力がこもった。
「けどな、触れたら安心した。瑞垣はここにおるんじゃって分かったでな。でもダメなんじゃ。不安、消えた思うたのに、名前呼んだら、よけい不安になってしもうた」
海音寺の声が微かに震え始めた。
「瑞垣は、いつか本当に俺の目の前から突然いなくなりそうで・・・それは瑞垣の意思じゃけど、何も言わずいなくなりそうで・・・嫌じゃ。いなくなるにしても何も言われんのは嫌じゃ」
感じた不安の中の本心。海音寺が今話していることがまさしくそれなのだろう。
気付いているだろうか。自分が話していることに。本人は気付いているだろうか。
「いつか名前呼んでも振り返ってくれんく・・・なって、名前呼んでも瑞垣はそこにおらんようになって・・・話すことも、触れることも・・・目にすることさえも出来んように・・・」
鼻をすする音が聞こえた。瑞垣は頭を撫でていた手を頬に移動させ、そっと肩口から海音寺の顔を離した。
海音寺もそれに従うように、腕の力を緩める。二人の間に少しだけ空間が出来たところで、顔を上げさせた。
今にもこぼれそうに涙を溜めた瞳、その涙がこぼれ落ちないように瑞垣は口で拭う。口の中に涙独特のしょっぱさが広がった。
海音寺の瞳を間近でまっすぐ捉える。
「お前は、そんなつまらんこと考えとったんか」
「つまらんことない」
「つまらん。そんなこと考える必要ないやろが」
「ある。瑞垣は捉えきれん。近くにおってもフワフワと何処かに飛んで行ってしまいそうなんじゃ」
軽く溜息をつく。海音寺の額に自分の額をくっつけた。
「なら断言したる。俺は海音寺の前からいなくならん」
海音寺の瞳が揺れる。濡れ、再び涙が溜まった。それをもう一度拭いながら、呟く。
「いなくならんから、そんな顔しんといてくれへんか?こっちも悲しうなるやろ」
海音寺が目蓋を閉じた。閉じた目蓋の上に瑞垣はそっと口付けを送る。額にも一つ口付けを落として、ぎゅっとその身体も抱きしめた。耳元に唇を寄せ囁く。
「ほら、もう寝ぇや。まだ眠いやろ。抱いとったるから。朝まで、明日海音寺が目覚ますまで抱いとったるで」
最後に耳元に口付けを送れば、海音寺の身体から力が抜けていった。
何も言わず、何もしず、じっとその身体を抱きしめていると、穏やかな寝息が聞こえ始めた。
確認するよに見れば、海音寺は眠っていた。微笑を浮かべふっと息を吐き出す。
眠る海音寺の身体を緩く抱いたまま、瑞垣もまた目蓋を閉じた。
※訳分からんにも程があるぜ。
訳分からん部分は、気力で感じ取ってください(土下座)
そして、とても偽者で申し訳。
たまには海音寺からと思わせて書いたら、瑞垣が思いのほか偽善者になりました。
でもですね、たまに私は本気で偽者くさい瑞垣を書きますが、私は瑞垣は、好きなものに対しては時に物凄く甘くなると思ってます。
対象を好きだと自分でも認め、受け入れたら、瑞垣は案外甘いと思います。
ただ、そこまでが長い。
これはいつか綺麗に書き直してメインにアップしたいかもしれませぬ。
まだ言いたいことはあったんですが、ちょっと省いたので・・・。
けど、メインにアップするなら、シチュとか色々流れをですね、いれて書きたいのですが、そういうのが全く思いつかないので・・・うーん;;書きたいのになぁ・・・誰かアイディアを下さい。
とりあえず、私はベッドの中でイチャつかせるのが好きということに気付きました。
あ、やらしい意味ではなくてですね、布団の中で抱きしめる行為が好きだなと思ったのです。
それでは。
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