「嫌じゃ」
海音寺は瑞垣を見るなり一言そう言い放った。
「まだ何も言っとらんやろ」
「お前の顔と手に持っとるもん見れば分かる」
海音寺は呆れ顔で瑞垣の手に持つものに視線を向ける。
瑞垣もまた、自分の手に視線を移し、それを目の前に持ち上げた。
「へー、海音寺はこういうもん知らんと思っとったんやけどな」
「・・・やらされたことあるからな」
「まっ、一希ちゃんの初めては俺やと思っとたのに!そんな事実知らされて、俊二くんショックを隠しきれんわ!」
「あーまーそん時はしとらんから。ギリギリで避けたから」
「ふふ、なら安心。・・・ということで、知っとるなら話は早い。ポッキーゲームやりましょ」
言って、海音寺に目の前にポッキーの箱を掲げる。
「だから嫌じゃ言うとるやろ」
目の前にある箱を一瞥し、海音寺は未だ呆れ顔で答えた。
チッと舌打ちをして、瑞垣は箱を床に置いた。
「別に恥ずかしいことじゃないやろ。やらされたこともあるんやろ。何がいかんのや」
「それは・・・」
「もしかして一希ちゃん、何かいやらしいことでも考えとるんやないの」
「なっ・・・!そんなこと・・・」
「ないならできるやろ」
ないと言おうとした海音寺の言葉を瑞垣が続ける。
ニコリと満面の笑顔で言う瑞垣の顔を見て、海音寺は言葉を詰まらせた。
もう逃げられないなと、冷静な頭が思う。
2・3秒、恨めしそうに瑞垣の表情を見、溜息をつきながら「分かった」と呟いた。
こんな予定ではなかったと海音寺は思った。
海音寺が頷くと同時に、瑞垣はベッドに背をあずけ、座った。
そして、伸ばした自分の足をポン、ポンと叩く。
その行動にハテナマークを浮かべながら海音寺が見ていると、「早よ、ここに座らんかい」と怒られた。
海音寺は抗議しようかと口を開くが、それも面倒と感じた海音寺は、終わったらすぐどけばいいんだという結論に至り、そろそろと指定された場所に腰を降ろした。
海音寺が座ったのを確認すると、ウキウキと瑞垣はポッキーの箱を開け始める。
袋を開け、一本取り出すと、瑞垣はチョコのついていない方を口に含んだ。
そして、座る海音寺の腰に手を回しながら、
「はい、どうぞ」
と言った。
「え?」
瑞垣の言った意味が理解できなくて、海音寺は自分の方に突き出されたポッキーの先端を見つめながら固まった。
「ん?どうしたん?」
「・・・俺が進む方なんか?」
「何か問題でも?」
「問題は・・・」
問題はと聞かれたら、別にない。瑞垣はしようとは言ったけど、さっきの段階で自分が進む方とは言わなかった。
「ほら、早よう」
腰に回されていた手に僅かに力が込められ腰が引かれる。
目の前にあるポッキーの先端が否応なしに口に近づいた。
じっとその先端を見つめた後、海音寺は瑞垣の肩に手を置き、意を決してポッキーの先端を口に含む。
ポキッ、ポキッと目を伏せながら海音寺は少しずつ進めた。
やらされた時以上に恥ずかしいと海音寺は心の中で思った。
距離が縮まるにつれて、頬に感じる熱が高くなっていることに気付く。
チラリと一度視線を瑞垣にむければ、笑みを消し、真っ直ぐ自分を見つめる視線にぶつかる。
目を伏せていたため気付かなかったが、ぶつかった視線は直ぐそこ。もうほとんど距離はなかった。
頬の熱が一気に上がる。恥ずかしさから、海音寺は瞳を強く閉じた。
もうダメだ。これ以上は進めない。もう一口だけ進めて離そうと考えた時、後頭部を掴まれた。
ん?と思い、目蓋を持ち上げれば、細められた瑞垣の瞳が目に入る。
海音寺が後頭部を引くより早く、瑞垣は残りの距離を埋め、チュッと音を立てて一つ。触れるだけのキスをした。
「ごちそーさん」
満面の笑みでそういう瑞垣に対して、頬がもう一度熱を持つ。
その顔を見られたくなくて、顔を伏せ、口の中に残っているものを飲み下した。
飲み下したものは、食べ慣れているはずのものなのに、いつも以上に今日は甘く感じられた。
海音寺が顔を伏せていると頭上から満足そうな笑い声が聞こえてきた。
「一希ちゃんの顔サイコーやったわ」
その声を聞いて、この羞恥に対する怒りが込み上げ、海音寺は俯きながら無防備に自分の目の前にある瑞垣の腹に一発お見舞いしてやった。
※えっとですね。苦情は受け付けません(苦笑)
なんだこれは・・・!予想以上に長くなったし・・・!
でも、久々に書いたら楽しかったです♪
水栄ver.も書く予定です!今日中に!しばしお待ちを!
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