※チャリに乗ってフラフラしてた時、見つけて、とっさに思いついたものです。
「何してんだ」
阿部はグラウンドの隅にしゃがみ込む後姿に上から声を掛けた。
皆が部室へ戻る中、一人グランドへと向かう栄口の姿を阿部は見た。
練習も終わり、用具も全て片付けた。グラウンドに行く必要などないはずだ。
何故だと思いながら、阿部はその後姿を追った。
栄口はグラウンドの隅にしゃがみ込むと動かなくなった。
嫌、何かやっているかもしれないが、自分の位置からは見えなかった。
阿部は気配を隠すこともせず近づく。
それにも関わらず、栄口は声を掛けた今でさえ振り返らない。
仕方ないと思い、阿部も栄口の横にしゃがみ込む。
そしてやっと見えた栄口の手。
その手には、おそらく死んでいるのであろう小鳥が乗せられていた。
あぁと阿部が思った。その瞬間、栄口が声を出した。
「さっき見つけたんだ。ボール…拾いに来た時に」
いつもより幾分低いその声のトーンに阿部は静かに耳を傾けた。
「死んでるって頭が認識した途端、言葉にできないんだけど…一瞬何かが身体をよぎったんだ」
栄口の手が小さな身体を優しく撫でた。
「こういう動物にね、可哀想って思っちゃいけないんだって。思っちゃうと魂が付いてきちゃうから…って昔母さんに聞いた。……だから、こんなことしちゃいけないんだろうなって思ったけど、やっぱり見過ごせないんだ」
この時初めて栄口が阿部の方へ顔を向ける。
栄口は弱々しい笑顔を浮かべていた。
阿部は栄口の手の上で眠る身体に目を移した。そして、その身体をそっと撫でる。
「お前がこいつ見て最初に何思ったか俺は知らねぇけど、少なくともこいつは死ぬ時苦しまなかったんじゃないか。見てみろよ」
と言って栄口に視線を落とすように促す。
「鳥の表情なんて分からないけど、こいつ苦しんだ様子はないだろ。それに、傷だってない。寿命で死んだ確率高いだろ。…栄口、自分の寿命をちゃんと生きた奴に可哀想なんて思ったら失礼だぜ」
視線を上げれば、いつの間に顔を上げていたのか、僅かに驚いたように目を開く栄口の視線とぶつかった。
「あっ、そうか」
栄口が新しい何かを得た時のような、今、この場にふさわしくない声を出す。
「そっか、そうだよね」
一度視線を落とし、小さな身体を見つめる。
それから顔をあげ、さっきの弱々しい笑顔ではない、いつものふわりとした笑顔を浮かべ、
「阿部、凄いや」
と言った。
それを見て、阿部も僅かに笑顔を作った。
阿部が地面へと手を伸ばす。指に力を入れ地面をえぐった。
「埋めてやるつもりだったんだろ」
そう言う間にも阿部によって地面が少しずつえぐられていく。
栄口は手に乗せていた小さな身体を地面の上にそっと下ろすと、阿部の掘っている箇所へと手を伸ばした。
「うん、そのつもりだった」
小さな身体を埋めるための小さな穴はすぐ掘られた。
魂をなくした小さな身体は、今土の中で眠っている。
※最初は水谷で考えたんですが、なんとなく阿部で。
阿部の方がこういう雰囲気に合わせやすいのです。
結果、阿部が偽者になりました…(苦笑)
やっぱ水谷のが良かったかな…でも!今日は阿部で書きたかったんです…!
余談ですが、栄口がお母さんから聞いたって言ったことは私が小さい時母から聞いたことです。
それ恐くて、今でもその…死骸をみつけた時、可哀想って思わないようにしてます(苦笑)
あと、微妙に…てかとても分かりづらいいいんですが、栄口は死に敏感って設定でこの小ネタは書かれています。
なので、見過ごせなかったと。そして、阿部はそのことを知ってます。
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