「俺、瑞垣のこと分からん」
君は普段からは想像が出来ない程の弱々しい表情をして、助けを求めに俺のとこへ来た。
そうやって君が頼ってくれるのだから、俺は君の心を救う慰めの言葉を口にすべきなのだろう。
それなのに、言葉をかけれないどころか、そう言って涙を流す君を見て、卑しい笑みがこぼれた。
あぁ、俺はいつの間にこんな笑い方を覚えたのだろうか。
「どうしていいか、ほんまもう分からんのじゃ」
君のなめらかな日に焼けた頬を涙が伝う。
それがひどく綺麗なものに見えて、触れたいと思った。
気づけば俺の手は君へと伸ばされ、その頬に触れる。穏やかな熱が指先から伝わる。
触れる俺の手に気づいた君がゆっくりと顔を上げた。
上げられた顔の、俺を見上げる瞳には綺麗と感じた涙が溜まっていた。
君が一つ瞬きをすると、溜まった涙がその振動で瞳から漏れ出る。
漏れ出た涙が流れ落ち、頬をつたう前に拭い取れば、君は頼りなさげに微笑んだ。
「あは、すまんな・・・門脇」
そうやって無理矢理作り上げた笑顔を見たら、妬ましく感じた。
無理矢理笑顔を作らせるアイツが、そこまで君を悩ませるアイツが、涙を流させながらも君の胸の中に居続けるアイツが、妬ましいと感じた。
「変なとこ見せたな」
君は苦笑を漏らしながら、頬にある俺の手を放した。
それと同時に外される瞳。瞳は俺から外れると、再び歪み、そこに涙を溜めた。
あぁ、君は今その歪む瞳で何を見ているというのだ。ここにはいないアイツを見ているのだろう?
そんな瞳をしないで欲しい。君には似合わないから。俺まで苦しくなるから。
俺の手に触れる手に力が籠もる。
それに気づいた時、俺は君に囁いていた。
「俺じゃいかんのんか?」
俺の手に触れる手を掴む。君を囲い込むように俺は君の頬に触れ、顔を寄せた。
俺を捉えた瞳に戸惑いの色が生まれる。
「俺やったら、海音寺をこんな悲しません」
導かれるように、俺の唇は君の唇へと自然動いた。
「門脇、ダメじゃ・・・」
触れる前に、視線を逸らし、手で制止を掛け、君が抵抗を見せる。けれど、その声は弱々しいものだった。
拒否を全面的にできない程、君の心にはアイツの手によって付けられた傷が深くあるということなのか。
ならばと思う。
ならば、そこを利用する手はないのではないか。
胸の中に居続けるお前が妬ましい、悲しませるお前が憎い、なにより、お前を想ってこんな悲しむ姿を見たくない。
それらはただ、これからするであろうことを正当化させるためだけの理由かもしれない。
けれども、理由がなんであれ、お前が少しでも手放すというなら、俺が手に入れる。
弱々しく制止をかける君の手を掴む。
その指先にそっと口付けた。
「俺じゃアイツの代わりになれんのやったら、俺は海音寺の話は聞けんよ」
俺のその言葉に君の表情が歪む。
俺は君から離れ、目線で部屋の扉を示した。察しの良い君は、俺の言わんとしていることに直ぐ気がついた。
そして、さらに深く顔を歪ませ、思案した後、立ち上がる。無言で見下ろす瞳が俺の言葉を求めているのが分かった。
俺が言葉を発しないことに気づくと、君はゆっくり足を扉の方へ向けた。君は直ぐそのドアノブを掴むことなく、扉の前に立った。
きっと君はまだ俺の言葉を待っているのだろう。でも、簡単に与えることは出来ないんだ。
そう、君をアイツから解放するために。君を俺のものにするために。
「門脇・・・」
君が振り向き俺の名を口にする。
けれど、まだ与えることは出来ない。俺は視線を合わすことなく、君の視線を横から受け止めた。
絨毯のすれる音がした。君から外した視界に、君の足先が入ってきた。
それを辿って視線を上へと巡らせる。
困惑、否定、容認、救済、様々な感情が渦巻いた瞳が俺を見下ろしていた。
「海音寺」
その瞳を宿す君の名を呼べば、君の肩が大きく揺れた。渦巻く瞳が色を増す。
俺は君へと手を差し出した。
「海音寺」
手を差し出したまま、再び君の名を呼べば、君は強く目蓋を閉じた。
唇を噛み締め、身体の横に下げられた手に力が籠もる。
「海音寺」
目蓋が持ち上げられると、そこには溢れんばかりの涙が溜まっていた。
奥歯を噛み締め、それが零れ落ちないように耐えながら、君は俺の差し出す手を手に取った。
弱っている君の心を利用するなんて、俺はそんなこといつ覚えたのだろうか。
俺は分かっていた。
俺が君を拒否すれば、君が俺をより求めるということを。
そこまでして俺を求めなくてはいけない程、君の心はアイツに傷つけられていた。
「門脇・・・」
掴む手を引き、その身体を引き寄せる。
小さく震える身体を俺は抱きしめた。
※まぁ・・・もう・・・なんか何言っていいか分かりません。
とりあえず、謝っとこうかな・・・ごめんなさい。
楽しいのは自分だけですよね(苦笑)
この後は、色々あった後、門脇は瑞垣にお電話するんじゃないですかね?
それでは、ご一読有難うございました。
誤字脱字チェックは、管理人激しく眠いので、後程・・・。
PR